2005年09月11日

審判請求の除斥期間に関する判例

平成17年07月11日 第二小法廷判決 平成15年(行ヒ)第353号 審決取消請求事件
要旨:  商標法4条1項15号違反を理由とする商標登録の無効の審判請求が除斥期間を遵守したものであるというためには,除斥期間内に提出された審判請求書に,当該商標登録が同号に違反する旨の記載があることをもって足りる
47条は,15号違反を理由とする商標登録の無効の審判は商標権の設定の登録の日から5年の除斥期間内に請求しなければならない旨を規定する。その趣旨は,15号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが,商標登録の無効の審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは,商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために,商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される。このような規定の趣旨からすると,そのような商標は,本来は商標登録を受けられなかったものであるから,その有効性を早期に確定させて商標権者を保護すべき強い要請があるわけではないのであって,除斥期間内に商標登録の無効の審判が請求され,審判請求書に当該商標登録が15号の規定に違反する旨の記載がありさえすれば,既存の継続的な状態は覆されたとみることができる。
 そうすると,15号違反を理由とする商標登録の無効の審判請求が除斥期間を遵守したものであるというためには,除斥期間内に提出された審判請求書に,請求の理由として,当該商標登録が15号の規定に違反するものである旨の主張の記載がされていることをもって足り,15号の規定に該当すべき具体的な事実関係等に関する主張が記載されていることまでは要しないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件審判請求が除斥期間を徒過したものでないことは明らかであって,本件審決に47条の解釈適用の誤りはない。本件審判請求が不適法なものではないとした原審の前記判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。


除斥期間経過前に「商標法4条1項15号の規定に違反してされたものであるから、同法46条1項の規定により無効とされるべきものであり、詳細な理由は追って補充する」旨を審判請求書の請求の理由に記載し、除斥期間後、補正命令により指定された期間内に具体的な理由を記載した書面を提出したというのが今回の事件です。

商標法47条は審判請求の除斥期間について規定されており、15号違反を理由とした無効審判請求にも除斥期間が定められています。

第47条
商標登録が第3条、第4条第1項第8号若しくは第11号から第14号まで若しくは第8条第1項、第2項若しくは第5項の規定に違反してされたとき、商標登録が第4条第1項第10号若しくは第17号の規定に違反してされたとき(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)、商標登録が第4条第1項第15号の規定に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)又は商標登録が第46条第1項第3号に該当するときは、その商標登録についての同項の審判は、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、請求することができない。

そもそも除斥期間を規定した47条は一定期間経過後は、無効理由のある商標登録であっても一定の信用が化体するので、その商標は保護してもよいという観点から規定されましたが、本来無効理由が存在する登録すべきでなかった商標ですので、その有効性を早期に確定させて商標権者を保護すべきという強い要請があるわけではないと判決で述べられています。

おそらく、除斥期間を適用しても、除斥期間を適用しなくてもよい微妙なライン上にありますが、どちらをより保護した方がよいかという観点から上述のような結論に至ったのだと思います。趣旨から47条はどちらかというと商標権者には厳しく適用される規定なのだと思います。

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投稿者 nabe : 12:55 | コメント (0) | トラックバック

2005年09月10日

分割に伴う補正の効果

今回は、商標法における、拒絶審決に対する審決取消訴訟中における分割(10条1項)に伴う補正(準特施規30条)の効果について言及した判例を紹介します。

平成17年07月14日 第一小法廷判決 平成16年(行ヒ)第4号 審決取消請求事件
要旨:  商標登録出願についての拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,分割出願がされ,もとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときには,その 補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない

商標法では審査・審判・再審・異議申立以外は補正をすることができません(68条の40)。一方、分割をすることができる時期はというと、審査・審判・再審の他に拒絶審決に対する審決取消訴訟です。補正の時期と分割の時期とを比較すると拒絶審決に対する審決取消訴訟では、条文上、68条の40に規定する補正はできないが、分割をすることが可能ということになります。拒絶審決の審決取消訴訟において分割できるとしたのは、商標法条約の要請からです。

(手続の補正)
第68条の40
 商標登録出願、防護標章登録出願、請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は、事件が審査、登録異議の申立てについての審理、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正をすることができる。
(商標登録出願の分割)
第10条
 商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り、2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。

68条の40とは別に、分割時においてもとの出願から新たな出願に記載した指定商品等を削除しなければならない旨記述した規定があります。それが商標法施行規則22条4項で、特許法施行規則30条を準用しています。分割としての体裁を整え新たな出願と元の出願との重複部分をなくすためです。この規定があるために、分割時においてもこの商標法施行規則22条4項を目的としていれば補正することができます。

ここで、補正の効果についてですが、商標法68条の40の補正の効果は遡及効により出願時にまで遡ります。それでは、分割と共にする補正はどうなのでしょうか。今回の判決では以下のように言及れています。

事件の概要は、

  1. 指定役務甲・乙・丙・丁について商標登録出願
  2. 拒絶理由通知に対して指定役務甲を削除する補正
  3. 拒絶査定
  4. 拒絶査定不服審判
  5. 拒絶審決
  6. 拒絶審決に対して審決取消訴訟
  7. 指定役務丁を分割し新たな出願。元の出願を指定役務乙・丙に減縮する補正
  8. 指定役務乙(「建築一式工事」を除く)・丙を分割し新たな出願。元の出願を指定役務「建築一式工事」に減縮する補正
という流れです。
商標法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,同条2項は,「前項の場合は,新たな商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」と規定している。また,商標法施行規則22条4項は,特許法施行規則30条の規定を商標登録出願に準用し,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合において,もとの商標登録出願の願書を補正する必要があるときは,その補正は,新たな商標登録出願と同時にしなければならない旨を規定している。

 以上のとおり,商標法10条は,「商標登録出願の分割」について,新たな商標登録出願をすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願の時にしたものとみなされることを規定しているが,新たな商標登録出願がされた後におけるもとの商標登録出願については何ら規定していないこと,商標法施行規則22条4項は,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合においては,新たな商標登録出願と同時に,もとの商標登録出願の願書を補正しなければならない旨を規定していることからすると,もとの商標登録出願については,その願書を補正することによって,新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずると解するのが相当である。

 商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決(以下「拒絶審決」という。)に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について補正がされたときには,その補正は,商標法68条の40第1項が規定する補正ではないから,同項によってその効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,商標法には,そのほかに補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずる旨の規定はない。そして,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合にも,補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずるとすると,商標法68条の40第1項が,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合以外には補正を認めず,補正ができる時期を制限している趣旨に反することになる(最高裁昭和56年(行ツ)第99号同59年10月23日第三小法廷判決・民集38巻10号1145頁参照)。

 拒絶審決を受けた商標登録出願人は,審決において拒絶理由があるとされた指定商品等以外の指定商品等について,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願をすれば,その商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなされることになり,出願した指定商品等の一部について拒絶理由があるために全体が拒絶されるという不利益を免れることができる。したがって,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときに,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることを認めなくとも,商標登録出願人の利益が害されることはなく,商標法10条の規定の趣旨に反することはない

 以上によれば,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。

68条の40で補正の時期を制限しており、審決取消訴訟中での補正を認めていないことから、分割と共にする補正(準特施規30条)には遡及効はないというのが結論のようです。分割で遡及効を認めているので、出願人には不利益がないといっています。


関連する話題について弁理士試験MLで有用な議論がありましたので参考までに挙げておきます。

http://www.ca.sakura.ne.jp/~patent/pa/dir_bbs/bbs1/patio.cgi?mode=view&no=250

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投稿者 nabe : 14:33 | コメント (2) | トラックバック

2005年09月08日

4条1項8号の「著名な略称」の判断について

平成17年07月22日 第二小法廷判決 平成16年(行ヒ)第343号 審決取消請求事件
要旨:  登録商標「国際自由学園」が商標法4条1項8号所定の他人の名称の著名な略称を含む商標に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例
本件商標「国際自由学園」が上告人略称「自由学園」を含む商標であること,上告人が被上告人に承諾を与えていないことは明らかであるから,上告人略称が上告人の名称の「著名な略称」といえるならば,本件商標は,8号所定の商標に当たるものとして,商標登録を受けることができないこととなる。  商標法4条1項は,商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号,15号等の規定とは別に,8号の規定が定められていることからみると,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち,人は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても,一般に氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には,本人の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。  そうすると,
人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべき
ものということができる。  本件においては,前記事実関係によれば,上告人は,上告人略称を教育及びこれに関連する役務に長期間にわたり使用し続け,その間,書籍,新聞等で度々取り上げられており,上告人略称は,教育関係者を始めとする知識人の間で,よく知られているというのである。これによれば,上告人略称は,上告人を指し示すものとして一般に受け入れられていたと解する余地もあるということができる。そうであるとすれば,上告人略称が本件商標の指定役務の需要者である学生等の間で広く認識されていないことを主たる理由として本件商標登録が8号の規定に違反するものではないとした原審の判断には,8号の規定の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。


商標法4条1項8号の「著名な略称」であるか否かの判断基準を示した判例です。
指定商品・指定役務を元にその需用者(のみ)の視点にたって「著名な略称」かを判断するのではなく、その略称が一般的に受け入れられるかどうかを判断しなければならないと述べています。

よくこの4条1項8号の適用を議論する場合に、指定商品等と切り離して適用してよいか否かという議論があります。条文上は、指定商品等については何ら規定していないので、「原則として」指定商品等に関係なく4条1項8号の適用はあります。ただし、全く無関係な商品等にまで拡張させると人格的利益を超え過剰に保護してしまい、産業の発達を阻害するおそれがあるので、指定商品等も考慮すべきであり、全く関係のない指定商品等の場合には適用がないというものです。

ここでは、その逆に指定商品等の需用者層のみを考慮するのではなく、常に本人を指すか否か一般に受け入れられるか考慮しなければならないと指定商品等にとらわれないより原則にたちもとった形の結論になりました。

この結論は、全く無関係の商品等にまで拡張させてよいという結論ではなく、むしろ指定商品等「のみ」考慮してはならないという結論だと考るべきです。
一般に受け入れられているかを判断するのは難しく、どこまでその適用を認めるかは議論が分かれることと思います。おそらく、立場によって主張する論理は異なってくるはずです。

※2005/09/12修正

あと、個人的に興味深かった点として、原審では、

本件商標「国際自由学園」が学校の名称を表示する一体不可分の標章として称呼,観念されるものであることを考慮すると,本件商標に接する学生等が,本件商標中の「自由学園」に注意を引かれ,本件商標が上告人の一定の知名度を有する略称を含む商標であると認識するとは認めることができない。

と判断していましたが、最高裁の判断では、「国際自由学園」が「自由学園」を”含む”とのみ述べ、一体不可分か否かについては言及していませんでした。条文通りの適用ということです。

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投稿者 nabe : 23:20 | コメント (0) | トラックバック