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2005年09月10日

分割に伴う補正の効果

今回は、商標法における、拒絶審決に対する審決取消訴訟中における分割(10条1項)に伴う補正(準特施規30条)の効果について言及した判例を紹介します。

平成17年07月14日 第一小法廷判決 平成16年(行ヒ)第4号 審決取消請求事件
要旨:  商標登録出願についての拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,分割出願がされ,もとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときには,その 補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない

商標法では審査・審判・再審・異議申立以外は補正をすることができません(68条の40)。一方、分割をすることができる時期はというと、審査・審判・再審の他に拒絶審決に対する審決取消訴訟です。補正の時期と分割の時期とを比較すると拒絶審決に対する審決取消訴訟では、条文上、68条の40に規定する補正はできないが、分割をすることが可能ということになります。拒絶審決の審決取消訴訟において分割できるとしたのは、商標法条約の要請からです。

(手続の補正)
第68条の40
 商標登録出願、防護標章登録出願、請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は、事件が審査、登録異議の申立てについての審理、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正をすることができる。
(商標登録出願の分割)
第10条
 商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り、2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。

68条の40とは別に、分割時においてもとの出願から新たな出願に記載した指定商品等を削除しなければならない旨記述した規定があります。それが商標法施行規則22条4項で、特許法施行規則30条を準用しています。分割としての体裁を整え新たな出願と元の出願との重複部分をなくすためです。この規定があるために、分割時においてもこの商標法施行規則22条4項を目的としていれば補正することができます。

ここで、補正の効果についてですが、商標法68条の40の補正の効果は遡及効により出願時にまで遡ります。それでは、分割と共にする補正はどうなのでしょうか。今回の判決では以下のように言及れています。

事件の概要は、

  1. 指定役務甲・乙・丙・丁について商標登録出願
  2. 拒絶理由通知に対して指定役務甲を削除する補正
  3. 拒絶査定
  4. 拒絶査定不服審判
  5. 拒絶審決
  6. 拒絶審決に対して審決取消訴訟
  7. 指定役務丁を分割し新たな出願。元の出願を指定役務乙・丙に減縮する補正
  8. 指定役務乙(「建築一式工事」を除く)・丙を分割し新たな出願。元の出願を指定役務「建築一式工事」に減縮する補正
という流れです。
商標法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,同条2項は,「前項の場合は,新たな商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」と規定している。また,商標法施行規則22条4項は,特許法施行規則30条の規定を商標登録出願に準用し,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合において,もとの商標登録出願の願書を補正する必要があるときは,その補正は,新たな商標登録出願と同時にしなければならない旨を規定している。

 以上のとおり,商標法10条は,「商標登録出願の分割」について,新たな商標登録出願をすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願の時にしたものとみなされることを規定しているが,新たな商標登録出願がされた後におけるもとの商標登録出願については何ら規定していないこと,商標法施行規則22条4項は,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合においては,新たな商標登録出願と同時に,もとの商標登録出願の願書を補正しなければならない旨を規定していることからすると,もとの商標登録出願については,その願書を補正することによって,新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずると解するのが相当である。

 商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決(以下「拒絶審決」という。)に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について補正がされたときには,その補正は,商標法68条の40第1項が規定する補正ではないから,同項によってその効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,商標法には,そのほかに補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずる旨の規定はない。そして,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合にも,補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずるとすると,商標法68条の40第1項が,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合以外には補正を認めず,補正ができる時期を制限している趣旨に反することになる(最高裁昭和56年(行ツ)第99号同59年10月23日第三小法廷判決・民集38巻10号1145頁参照)。

 拒絶審決を受けた商標登録出願人は,審決において拒絶理由があるとされた指定商品等以外の指定商品等について,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願をすれば,その商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなされることになり,出願した指定商品等の一部について拒絶理由があるために全体が拒絶されるという不利益を免れることができる。したがって,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときに,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることを認めなくとも,商標登録出願人の利益が害されることはなく,商標法10条の規定の趣旨に反することはない

 以上によれば,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。

68条の40で補正の時期を制限しており、審決取消訴訟中での補正を認めていないことから、分割と共にする補正(準特施規30条)には遡及効はないというのが結論のようです。分割で遡及効を認めているので、出願人には不利益がないといっています。


関連する話題について弁理士試験MLで有用な議論がありましたので参考までに挙げておきます。

http://www.ca.sakura.ne.jp/~patent/pa/dir_bbs/bbs1/patio.cgi?mode=view&no=250


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投稿者 nabe : 2005年09月10日 14:33

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コメント

スイマセン、いきなりTBしまして。
特許って自分もブログ記事に書いて於きながら今少し頭が足らないので、読ませて頂きましたので了解も得ずしょうむな上読みづらい記事でTBしました事、お赦し下さい。

投稿者 antrsocial : 2005年09月11日 06:53

Hi! I know this is kind of off topic but I was wondering if you knew where I could locate a captcha plugin for my comment form? I'm using the same blog platform as yours and I'm having trouble finding one? Thanks a lot!

投稿者 Cheap Tiffany Jewellery Outlet Online - Tiffany & Co Outlet Store : 2014年06月29日 03:39

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